無冠文庫

古今東西傑作小説集

2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

掌編味覚『シンプル』

無駄。「まーた電気つけっ放しじゃん」何故スイッチを切らないのか。どうして五分前に集合するのか。大が小を兼ねる理由も、オシャレという飾りの訳すら解らない。キッカケは娘の何気ない言葉だった。「お父さんなんて誰も見てないから」私は帽子を被る事を…

掌編視覚『顔』

「私の初恋の相手を紹介するから」そう言って私は、友人を呼びつけた。「ここの美術館変わってないのな」言いつつも友人は物珍しそうに作品を眺めた。美しい後ろ姿の西洋絵画のレプリカ。「私はよくその壁の彼女に会いに来るよ」「は、えっ」「小学校の遠足…

掌編触覚『瞳の夜』

「おやすみ」から始まる夢の世界で、 「おはよう」は滅びの呪文なんだよって、 いつか傍らで嫋やかな君が言った。 二人の帳。すやすや安らぐ君の隣で、寝むれぬ一夜を一人過ごした。 今夜、「おやすみ」と君が言った。眠った様な呼吸は和みの飽和でいて、薄…

掌編聴覚『みえないモノが見える』

机が爆発した。一億分の九千二百万人が消えた。これはもしもの話だ。僕らの生活には不可欠で、学校も、オフィスも、食卓も、机が支えてるけど、当たり前過ぎて誰にもみえない。これは今、目の前の話。一割の人は左手に、僕はこの右手に誰かの見方を握りしめ…