無冠文庫

古今東西傑作小説集

掌編味覚『解剖学的嗅ぎ煙草入れ』

煙草と聞いて制服姿の彼女を思い出すのは、余りにエモーショナルな言い分を聞いた覚えがあるからに違いない。

ある帰り時、目の前に好きな子が歩いてた。僕が付けたのか、偶々か、後者であれと願うばかりだがとにかくチャンスか、もちろん男なら告る他ない、極論かもしれないが、話した事すらないが、行って後悔してこそだろ、さっそく玉砕覚悟かよ、落ち着けまずは友達から、なんて声かけようか、とか悩んでいる内に彼女はおもむろに煙草に火を付け、僕は思わず蒸せて吹き出した。

歩き煙草で前を行かれると、少し嫌な気分になるでしょ、私もそれに習っただけ」

彼女が僕に振り向いたのは、それが最初で最後だった。

「吸うの、」

「いいえ、未成年だもの。厄除けみたいなものかな」

僕はそれでも彼女の後ろを歩いて帰った、やけに痛んだ目を拭った袖口に、何とも拭えない染みが残されていた。


「しょっぱい」

ただそれだけのある日の話。